手抜き?山歩き 藤無山・一山(2000.8.14)


藤無山

氷ノ山から南東に伸びる山稜が揖保川源流地帯に向かって大きく高度を下げて前に,大きな山容を見せるのが藤無山。播磨国風土記に大国の主の命と天の日槍が但馬の領有を争って石を投げあったとき,石を結ぶ藤蔓を捜したが見つからなかったところから,この名がついたとある。(『ふるさと兵庫50山』より)

  
P・1〜4
P・1〜4

奥播磨の秘境ともいわれた藤無山ですが,最近では,兵庫50山に選定され,ポピュラーな山の一つになったようです。俗化されたとお嘆きの方もあるでしょうか,ルートが整備され登りやすくなっていることは明らかです。我々一般庶民にとっては,やはり登りやすいほうが助かります。

現在は,大屋スキー場から登るのがメインルートのようですが,今回は手抜きをして,沼谷林道の藤無峠手前から登ることにしました。距離はメインルートの2/3,所要時間1時間程度です。ただでさえ短いルートがさらに短くなり,奥播磨の秘境なんてものではありません。3歳の幼児だって登れそうです。これではダメ,ダメ?しかも今回はMTB無しの手ぶら登山です。同行のS田さんによると,急坂がある上に,下りでもMTB乗車率が低いとのこと。こんなコースでは,歩きの方が速いということはよくあることです。

ガスが…!

道谷に近づくにつれ,雲が多くなってきました。そればかりか,少し高い山にはガスがかかっています。ちょっぴりイヤな感じ。道谷から沼谷林道への入口には,「右やま 左たぢま」と書かれた石の道しるべがあります。さすがです。秘境への第一歩という感じがします。林道は水田の脇を抜け,しだいに山道に変わっていきます。しばらくすると,路面もアスファルトから地道へ。でも,荒れていないので普通乗用車でも十分通ることができます。ただ,この先の藤無峠からの道は普通乗用車ではつらいかもしれません。

ほどなく,左が広くなったカーブ地点(P)に到着。枯れ木に赤テープが巻きつけられています。ここです。登山道入口です。が,目の前には背丈ほどのススキが立ちはだかっています。おまけに,雨が降っていたので,ススキはぬれています。イヤな予感です。おまけに,ボクは半ズボンです。ススキの葉ですり傷のし放題です。その上,ススキの原の先がどうなっているのでしょう。あまり人が入っていないルートだと,かなりのアドベンチャールートになっている可能性があります。

未知のお手軽ルート

不安はあるものの飲み物をリュックに詰め,出発。まずは,ススキをかき分けて,進みます。10mほどでクリアー。でも,それだけですっかりぬれてしまいました。が,雨は上がりました。歩いている道を見ると,なんと轍があります。何十年か前には,車が通る林道だったようです。今では,すっかり草地になっています。途中で,分岐(1)がありますが,赤テープの誘導があるのでOK!

しばらくすると,林道は右に曲がっていますが,赤テープは目の前の植林帯に続いています。地図で見ても,左手の谷を上り詰めてコルに出るようになっています。あまり人が入らないルートのように思っていましたが,これだけ赤テープの誘導があると万全です。しかもその赤テープの中は,見覚えのあるものがあります。MTB登山の達人O柿さんのものです。藤無山もwithMTBとは!恐るべし!サイボーグO柿!

暗〜い植林帯ですが,踏み跡はしっかりついています。さほどの勾配はなく,谷を一つ越えると,次の谷を上り詰めるだけで,メインルートのコル(2)に出ます。地図でもそれほどの距離もなく,勾配もなく,予想はしていたものの,あっけないアプローチでした。これからは,目の前の急坂を登らなければいけません。展望はありません。あいかわらずおしゃべりをしながら,のんびり山歩きです。以前にこのメインルートで登ったことのあるS田さんは,薄れかけていく記憶を呼び起こしながら歩いています。そのかすかな記憶と比べても,今のルートはずいぶん歩きやすいそうです。

見事な展望の尾根道

登りきると,展望の開けた尾根道(3)に出ます。今日は,曇りがちなので氷ノ山はじめ,三室山などもガスの中に隠れてしまっていますが,それでも南側の三久安山,阿舎利山,一山などのなだらかな山容を望むことができます。目の前には,1076mのピーク,さらにその奥にガスのかかった藤無山が見えます。この尾根は,ルート随一のビューポイントということだからでしょうか,周りの木が刈り払われて,ベンチ代わりの丸太もあります。これも兵庫50山に選定されたおかげでしょうか。

  
展望のひらけた尾根道 何ていう花?
展望のひらけた尾根道

気持ちのいい尾根道を歩き,1076のピークを登ります。ここはそれほどの勾配はありません。心配していたガスは広がる様子はなく,逆に藤無山山頂付近はガスが晴れはじめてきました。左手の植林の間からは大屋スキー場の上部が見えます。スキーに来た時に,スキー場から見上げていた稜線を,今は歩いているのです。何年も前からこの稜線の先の藤無山に行ってみたいと思っていたのですが,今日やっとその願いが叶えられます。

しだいに尾根道の横はブナ林になってきました。太陽の光を通したブナの葉は,鮮やかな黄緑色です。見ただけで,爽やかな気持ちになります。その上,今日は曇りがちということもあって,標高1000mのこのあたりは下界の蒸し暑さとは無縁です。極楽,極楽。

  
ブナ林の道 藤無山山頂
ブナ林の道
藤無山山頂

藤無山山頂!

ブナ林になると藤無山山頂はもうすぐです。そしていきなり視界が広がり,山頂(4)です。予想通り所要時間1時間。こんなに簡単に着いてしまっていいのだろうかと思ってしまいます。山頂は,360°の展望ではなく,北面が望める程度です。今はガスの中の氷ノ山東尾根から続く杉ヶ沢高原,その続きの大屋高原が見えます。その右手には御祓山らしき山が見えます。

この山頂から南に下る登山道ができたというので偵察。なるほど,はっきりとした登山道があります。この道は最近できたもののようで,S田さんが以前登った時には見当たらなかったそうです。この登山道は一宮町の公文につながっているとのことですが,実際に下ってしまうと車まで帰るのが大変です。今日は,とりあえずパス。でも,もしかするとO柿さんはこの道を下ったのかもしれません。いつかご一緒した時に,そっと聞いてみましょう。でも,藤無山山頂にO柿プレートはありませんでした。他のグループ,個人のプレートはいくつかあったのですが。もしかすると,O柿プレートのコレクターがお持ち帰りしたのかもしれません。それとも,周りの木を伐採した時に,一緒に切られてしまったのかも。

急遽,予定変更

S田さんはいつもの「おつとめ」を終え,これから下山です。ピストンコースなので,周りの景色は変わりませんが,視界の開ける方向が180°変わるので,来る時に気づかなかった景色が見えます。新戸倉スキー場の上部も見えます。戸倉峠らしきコルも見えます。S田さんご希望の赤谷の頭はガスの中のようです。

再び982mのビューポイントに立ち,展望を楽しみます。これから行くつもりの東山よりも,一山の山頂が気になります。いつもは西側からしか見たことがないのですが,こうやって北側から見ると新しい伐採地が広がっています。山頂を見ると,かなりの展望が期待できそうです。ということで,急遽,これからのターゲットを東山から一山へ変更。東山ならいつだって行けるでしょう。氷ノ山の帰りだって。それより,あの青空に映えるこんもりとした山頂に惹かれてしまいます。

最後の急坂を降り,暗い植林帯を抜け,赤テープを付け替え,車に戻って,一山を目指します。沼谷林道は,一宮町に続く林道で,道路地図にもはっきりと乗っています。が,一宮町側は,道が荒れているので,普通乗用車ではつらいかもしれません。が,途中で,4WD車2台,オフロードバイク4台に遭遇。ヤッパリこの道を通る人はいるんですねぇ。

一山へのリエゾン

一宮町へ下りると,大きな分岐に,お墓があります。かなり昔のお墓のようです。今日はお盆ですが,さすがにここにお墓参りに来る人はいないようです。かたわらの谷川には,入漁禁止の看板が。ということは,こんな上流でも魚が釣れるんだ。

  
お墓 営林署の小屋
お墓
営林署の小屋

さらに下ると,営林署の作業小屋を発見!なんだかおもしろいことが書かれています。その先の植林の中には小さな祠を発見!左手の谷川はしだいに水量を増し,道はダートから舗装路に。こんな山の奥にも集落があります。兵庫県は広い!を実感できます。と同時に,そこの住人の生活をふと心配してしまいます。が,人の心配をするひまがあるんなら,自分の心配をせいよ!と言う天からの声が聞こえてきそうです。

阿舎利

三方にいったん下り,阿舎利川沿いに登り返します。釜河内を過ぎると,阿舎利までの10kmほどはまったくの山の中です。途中に「小原段名水」と書かれた名水ポイントを発見。早速いただくことに。冷たくておいしい。ボトルにも詰めてしまいました。

両側の視界が広がってくると阿舎利の集落です。35年前にこの地を訪れた多田繁次さんは,著書『兵庫の山やま総集編』で,「流れを挟んで両側がわずかにひらけた阿舎利は,三方を高い山々をめぐらせて,ひっそりと静まり返っていた」と記しています。そのひっそりと静まり返った阿舎利の集落は,今では3軒ほどが生活しているだけで,ますます静まり返っています。が,道の脇にある墓地のそれぞれのお墓にはきれいな花が生けられています。さらに先に進み,集落のはずれになると,朽ちた人家が目につきます。先ほどのひらけた地にある人家に比べると,周りが植林帯で日当たりが悪く,住むのには大変だったでしょう。

  
5・6
5・6

あっけない一山

小鹿の先導を受けながら,地道になった林道を進みます。しだいに高度を上げながら,なおも林道は続きます。と,急に左手の視界が開け,一山のドーム状の山頂が現れました。林道は分岐し,さらに直進すると引原に続いているのですが,現在は峠付近がガケ崩れのために通行不能になっています。分岐を左手に進み,一山の中腹を巻くように林道を進みます。林道の終点が山頂への取り付き(5)です。以前に一山に登ったS田さんは,その時もここから登ったそうです。

遅い昼ご飯をいただき,早速登り始めます。崩れかけた木のはしごが目印です。でも,このはしごは壊れそうなので,実際には使えません。狭い尾根に上がると,道ははっきりとしています。ただただ目の前の尾根を登るだけです。以前にS田さんが登った時には,この道はすぐになくなり,左手のそま道をグル〜と回り込んで,東の尾根から山頂に登ったそうです。が,今はきれいな尾根道がずっと上まで続いています。途中にはブナの林もあります。その先にある植林帯で道はわかりづらくなっていますが,植林帯の最上部に出れば,目指すピークは目の前です。

  
ブナ林の中の道 青ヶ丸の予行?
ブナ林の中の道
青ヶ丸の予行?

正規のルートは植林帯の上部の左手にある登山道を進むのですが,それがわからなかった我々は笹原をかき分け前進。まるで,青ヶ丸登頂大作戦の予行です。それでも山頂が見えているので,気楽です。間もなく,笹原を脱出して,正規のルートに復帰。直線に登って,山頂(6)です。所要時間35分。あっけない登山でした。が,そのあっけなさとは反対に,山頂からの展望は,県下でもベスト10に入るほどのスバラシさです。

展望抜群!

300°の展望です。残りの60°は,南側の木立がジャマをしています。それでも,多田繁次さんの後ろ髪をひいた東山は,木立の間からきれいに見えます。双眼鏡を使えば,山頂のやぐらも確認できます。東には,電波塔のある暁晴山,その続きの千町ヶ峰,段ヶ峰,笠杉山。北に目を転じると,目の前に阿舎利山,三久安山,3時間ほど前に登った藤無山もはっきりと見えます。その奥に見えるはずの氷ノ山は,あいかわらず雲の中です。西を見ると,これまた雲に隠れた三室山,その続きに竹呂山,さらには植松山,大甲山と続いています。木立の間からは,7月に登った黒尾山の電波塔跡も,双眼鏡ではっきりと確認できます。これだけの展望が楽しめる山というのは,珍しいでしょう。しかも,この山頂には木の切り株があるので,その上に立てばさらに展望がよくなる!?予想外の展望のよさに気をよくしたS田さんは,早速「おつとめ」の開始です。

  
藤無山をバックに 林道から見た一山
藤無山をバックに
林道から見た一山

時間に余裕があるので,じっくりと景色を楽しみ,記念撮影もたくさんしてしまいました。それにしても35分の山歩きで,これだけの展望が楽しめるなんて,感動的ですらあります。一山に予定を変更して大正解でした。だから山登りって,止められないのよね。下りは,藤無山同様,ピストンです。が,植林帯の中は要注意です。まっすぐ下ってしまうと,深い谷に降りてしまいます。登ってきた道を正確にたどれらなけらばいけません。

今日は,藤無山といい,一山といい,さほど歩くこともなく,見事な展望を楽しむことができました。真夏の暑いさかり,たまにはこんなお手軽登山もいいものです。


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